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RAG・生成AIサービスの特許

特許庁の審査事例で見るポイント

生成AIを組み込んだサービスで特許のポイントを探すときは、「生成AIを使ったこと」ではなく「AIに渡す情報をどう作り、出てきた結果をどう使うか」を見ます。特許庁が2024年3月に追加した審査事例でも、生成AIで業務を置き換えただけの例は進歩性なし、入力の作り方に工夫がある例は進歩性ありと判断されています。この記事では、その事例をもとに、自社サービスのどこを見ればよいかが分かります。

弁理士 泉 良裕

特許庁は2024年3月に、生成AIを使う例を含む10事例を追加した

特許庁は2024年3月13日、AI関連技術の審査事例を10件追加しました。進歩性、記載要件、発明該当性について、審査でどう判断するかを示したものです。このうち事例37・38は、大規模言語モデル(大量の文章で学習し、文章を生成するAIモデル)を使う事例です。事例37の解説には、大規模言語モデルなどの生成AIを業務やビジネスに使う試みが増えている、と書かれています。

事例が示すこと(1)業務を生成AIに置き換えただけでは進歩性なし

事例37(審査ハンドブック附属書Aの事例番号)は、カスタマーセンター用の回答自動生成装置です。請求項(権利として守る範囲を、項目ごとに書いたもの)は、受け付けた質問文を大規模言語モデルに入力して、回答文を自動で作るというものでした。

比較された先の技術(引用発明)は、カスタマーセンターの担当者が回答文を作る方法です。担当者は、過去の問合せの事例を蓄積したデータベースを検索し、質問文と合う事例を参照して回答文を作ります。

判断は「進歩性なし」です。理由として、人間が行っている業務を効率化するために、質問文を大規模言語モデルに入力して回答文を得ることは慣用されている、とされました。

人の業務をシステム化しただけの場合の考え方は、自社システムの特許のポイントはどこか で説明しています。

事例が示すこと(2)AIに渡す情報の作り方の工夫が評価された

事例38は、大規模言語モデルに入力するための文章(プロンプト)を作る方法です。質問文に、参考情報となる付加文章を加えてモデルに入力する構成です。

  • 請求項1:付加文章を、質問文と合わせた文字数がモデルの制限文字数以下になるように作る → 「進歩性なし」。情報処理量が過大にならないようにすることは自明な課題であり、制限文字数の設定は周知技術とされました
  • 請求項2:質問文に関連する文章を複数取得し、そこから抜き出したキーワードを使って付加文章を作る → 「進歩性あり」

請求項2について、特許庁は二つの理由を挙げています。一つは、この構成を開示する先行技術が見つかっておらず、出願時の技術常識でもないことです。もう一つは、より信頼性が高く適切な回答文を得られるという、引用発明と比べて有利な効果があることです。

事例の中で「RAG」という言葉は使われていません。ただ、質問に関連する文章を集めて生成AIへの入力に加える点で、RAG(質問に関連する文書を検索し、生成AIへの入力に加えて回答させる仕組み)と共通する部分を含んでいます。

生成AIの事例ではありませんが、事例40のレーザ加工装置にも似た判断があります。人間が行う判断を学習済みモデルで代替することは慣用されているとして、請求項1は進歩性なしとされました。一方、学習済みモデルの入力データに「レーザ発振器の累積使用時間」を加えた請求項2は、進歩性ありとされています。加工パラメータの調整量の推定精度を大幅に向上できる、という有利な効果が理由の一つです。

なお、この事例では、累積使用時間を加えることによる効果が「発明の詳細な説明」(出願書類のうち、発明を詳しく説明する部分)で十分に説明または検証されている、という前提が置かれています。工夫による効果は、出願書類で具体的に説明しておくことが大切です。

事例が示すこと(3)機械学習では入力と出力の関係を書いておく

記載要件(出願書類の書き方についての要件)の事例も参考になります。

事例54(ネジの締付品質の機械学習装置)の請求項1は、学習に使うデータのうち、どれを入力とし、どれを出力とするかを特定していませんでした。そのため、課題を解決できない場合まで含まれるとして、サポート要件(請求項の範囲が、説明した内容を超えていないこと)を満たさないとされています。入力と出力の関係を特定した請求項2は、拒絶理由なしとされました。

自社サービスで見直したい3つの点

ここからは、事例と当事務所のAIページの内容をもとにした整理です。生成AIを組み込んだサービスでは、次の3点を書き出してみてください。

  1. AIに渡す前:どの情報を集め、どう選び、どう加工してから渡すか(検索の対象、絞り込みの条件、文字数の調整など)。事例38が参考になります
  2. AIから受け取った後:出力をどう検証し、どう次の処理や装置の動きにつなげるか
  3. 組み合わせ方:複数のAIや外部サービスを、どの順番でどう組み合わせるか
図1 生成AIの前と後に工夫を探す生成AIを組み込んだサービスで見直したい点を、上から3段に並べた図。1段目は「AIに渡す前」で、情報を集める・選ぶ・加工する部分。2段目は「生成AI」。3段目は「AIから受け取った後」で、出力を検証し、次の処理へつなぐ部分。1段目と3段目を強調している。AIに渡す前集める・選ぶ・加工する例:事例38生成AIAIから受け取った後検証し、次の処理へつなぐ工夫があれば特許になるとは限らない
図1 生成AIの前と後に工夫を探す

どれも、基本の問いである「従来のやり方との違い」「処理の流れの工夫」を、生成AIの前後に当てはめたものです。ただし、工夫があれば特許になるとは限りません。同じような工夫がすでに公開されていないかは、先行技術調査(同じような技術がすでに公開されていないかを調べること)で確かめる必要があります。どのような点が特許の対象になりうるかは、AI・生成AI・ソフトウェアの特許相談のページでも紹介しています。

発明者はAIではなく人

生成AIを使って開発すると、発明者を誰にするか迷うことがあります。

知的財産高等裁判所は2025年1月30日の判決で、特許法で特許を受けられる発明は、自然人(人間)が発明者となるものに限られると判断しました。これは、AIを発明者として記載した国際特許出願が却下された処分について、その取消しが求められた事件です。

AIを道具として使う場合の考え方は、内閣府知的財産戦略推進事務局が開催した「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめ(2024年5月)で示されています。特許庁の審議会資料(2025年1月)は、この中間とりまとめを抜粋して、次の考え方を紹介しています。

  • AIを利用した発明でも、モデルや学習データの選択、学習済みモデルへのプロンプト入力などで、人が関与することが想定される
  • 発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したと認められる者を発明者と認定すべき

つまり、AIを使ったかどうかではなく、発明の特徴的な部分を誰が考えたかで判断する、という従来の考え方が維持されています。なお、中間とりまとめは、記載内容に法的な拘束力はないとしています。

まとめ

  • 特許庁の事例では、業務を生成AIに置き換えただけの請求項は進歩性なしとされています
  • AIに渡す情報の作り方に具体的な工夫があり、有利な効果がある請求項は、進歩性ありとされた例があります
  • 工夫の内容と効果、機械学習を使う場合は入力と出力の関係を、具体的に書き出しておくことが大切です

出典

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