ソフトウェアは「具体的な処理の流れ」があれば特許の対象になる
特許法は、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定めています。ソフトウェアがこれに当たるかについて、特許庁の審査ハンドブックは判断の目安を示しています。
その目安は、ソフトウェアとハードウェア資源(CPUやメモリなどの装置)が協働する具体的な手順があるかどうかです。その手順で、使用目的に応じた特有の情報処理を実現しているかを見ます。平たく言えば「コンピュータを使い、目的に合わせた処理の手順を具体的に書けるか」です。
反対に、次のようなものは発明に当たらないとされています。
- 売り方や料金体系など、人が決めたルールそのもの
- 人が決めたルールに、「コンピュータを使う」と付け加えただけのもの
具体的な処理の流れが書ければ、次に問われるのは「新しいか(新規性)」と「容易に思いつけないか(進歩性)」です。
「人の作業をそのままシステムにしただけ」では足りない
審査ハンドブックは、人が行っている業務をシステム化してコンピュータで実現することを、通常の創作能力の範囲としています。日常的なシステム設計で実現できる程度であれば、進歩性は認められにくい、という考え方です。
また、処理が速くなることや入力ミスが減ることは、システム化に伴う当然の効果とされることが多いです。そのため、見るべき点は「システム化したこと」ではありません。「システム化する中で生まれた、処理の工夫」です。
架空の例:部品卸の在庫管理システムで考える
ここからは架空の例で考えます。ある部品卸の会社では、担当者が毎朝在庫表を見て、経験で発注量を決めていました。その結果、繁忙期の前に欠品が起き、閑散期には在庫が余っていました。
案A:在庫数が基準を下回ったら発注メールを送る
これは、担当者の作業をそのままコンピュータに置き換えたものです。開発の手間はかかっていても、特許のポイントにはなりにくいと考えられます。
案B:注文になる前の需要を取り込み、発注の基準を毎日変える
取引先からの見積依頼データを、出荷実績とあわせて取り込みます。品目ごとに「見積から注文になった割合」を毎日計算し直し、発注の基準値を自動で更新します。さらに、仕入先の納期の遅れを検知した品目は基準値を引き上げます。
案Bには、案Aにない工夫が三つあります。
- 使うデータの選び方(まだ注文になっていない見積依頼を使う)
- 処理の順序と条件(割合を更新してから基準値を決める。遅れを検知したら引き上げる)
- 出力の使い方(基準値の更新が、そのまま発注の指示につながる)
特許のポイントの候補は、この三つです。ただし、同じような仕組みがすでにあるかは、先行技術調査(同じような技術がすでに公開されていないかを調べること)をしないと分かりません。
発明整理シートの七つの問いに当てはめる
当事務所の相談では、発明整理シートの七つの問いを使って発明を整理します。案Bを当てはめると、次のようになります。
| 問い | 架空の例での書き方 |
|---|---|
| 1. どのような場面で困っていましたか | 繁忙期の前に欠品が起きていた |
| 2. これまではどうやっていましたか その不都合は何ですか | 担当者の経験で発注していた。注文前の需要が反映されなかった |
| 3. どのように解決しましたか | 見積依頼データを取り込み、品目ごとに発注の基準値を毎日更新する |
| 4. それによって何が良くなりますか | 欠品と過剰在庫が減る(実績の数値があれば記入) |
| 5. 図・スケッチ・写真はありますか | データの流れと処理の順番を描いた手書きの図 |
| 6. すでに公表・販売していますか その時期 | 社内での運用開始日。取引先に見せたかどうか |
| 7. その他、お伝えいただきたいこと | 外注先が開発に関わったかどうか |
中心は問い3です。ここには画面の説明ではなく「何を入力し、どの順に処理し、何を出力するか」を書いてください。箇条書きで十分です。
問い6も大切です。公開や販売の時期によっては、出願できなくなる場合があります。判断の考え方は、判断ガイドにまとめています。
まとめ
- ソフトウェアの特許のポイントは、機能ではなく「具体的な処理の流れ」にあります
- 人の作業をそのままシステムにしただけでは、進歩性が認められにくいとされています
- 「使うデータ」「処理の順序と条件」「出力の使い方」の三つの工夫を書き出してみてください